このページの目次
1 そもそも「特有財産」とは何か?
離婚時の財産分与は、原則として「夫婦が婚姻期間中に協力して築いた財産」を2分の1ずつ分けます(共有財産)。 これに対し、「分与の対象にならない、個人の持ち物」を特有財産と呼びます。
民法上、特有財産と認められるのは主に以下の3つです。
- 結婚前から持っていた財産(独身時代の預貯金、株式、購入した不動産など)
- 結婚後に「自分だけ」の名義で得た財産(親からの相続、贈与など)
定義だけ見れば簡単そうに見えます。 「結婚前の通帳に入っていた300万円は僕の特有財産だ。だから今の残高1000万円から300万円を引いた、700万円だけを分けよう」。 これは正論です。しかし、実務ではそう簡単にいきません。
なぜなら、「お金には色が付いていない」からです。 結婚から10年、20年経った今、その「300万円」が当時のまま残っていることを、あなたは証明できますか?
2 特有財産で「揉める」3つの鉄板パターン
私の経験上、特有財産を巡るトラブルは以下の3つのパターンに集約されます。これらは非常に判断が難しく、弁護士の腕の見せ所でもあります。
パターン1:独身時代の貯金が、生活費と混ざってしまった
これが最も多いケースです。
- 状況: 夫は結婚時、独身時代の貯金300万円が入ったA銀行の口座を持っていました。結婚後、このA銀行を「給与振込口座兼生活費口座」として使い続けました。入金(給与)と出金(生活費)が繰り返され、現在の残高は500万円です。
- 争点: 夫は「元の300万円は特有財産だ」と主張しますが、妻は「生活費で使い切って、今の500万円は結婚後に貯めたものだ」と主張します。
- 結論の傾向: 「混ざって区別がつかない場合、すべて共有財産と推定される」リスクが高いです。 特に、残高が一時的に300万円を下回った時期がある場合、「特有財産は取り崩された(消費された)」とみなされ、その後に増えた分はすべて共有財産と判断されやすくなります。
パターン2:【不動産】頭金だけ「独身時代の貯金」や「親の援助」で出した
マイホーム購入時によくあるトラブルです。
- 状況: 4000万円のマンションを購入。夫が独身時代の貯金から頭金500万円を出し、残りの3500万円はローン(婚姻中に返済)で購入しました。現在の査定額は3000万円です。
- 争点: 夫は「500万円出したんだから、その分は優先的に返してほしい」と言いますが、今の価値は下がっています。どう計算するのか?
- 解決策: 「寄与度(きよど)」**という考え方を使います。 購入価格に対する特有財産の割合(500万 ÷ 4000万 = 12.5%)を出し、現在の価値(3000万円)からその割合分(3000万 × 12.5% = 375万円)を特有財産として夫が確保。残りを折半する、という計算を行います。
パターン3:【投資】独身時代の株が、結婚後に大化けした
アベノミクス以降、増えている事例です。
- 状況: 妻が結婚前に100万円で買った株が、結婚後に値上がりして1000万円になりました。
- 争点: 夫は「結婚生活で俺が生活費を出していたから、君は安心して株を持っていられた。増えた900万円は夫婦の協力のおかげ(共有財産)だ」と主張します。
- 結論の傾向: 「自然な値上がり益(パッシブな運用)」は特有財産とみなされることがあります。 ただし、妻が専業トレーダーのように毎日頻繁に売買を繰り返し、夫の給料で生活しながら資産を増やしたような場合(アクティブな運用)は、「労働の対価」に近いとして、増えた分が財産分与の対象になる可能性があります。
3 勝敗を分けるのは「証拠」が大切
裁判所において、「確かに結婚前にお金を持っていたはずだ」という信用だけでは認められません。客観的な証拠が必要です。
必要な証拠リスト
- 婚姻日(または同居開始日)時点の残高証明書・通帳
- これが無いとスタート地点に立てません。
- お金の流れ(フロー)が分かる通帳の履歴
- 特有財産が「別の口座に移っただけ」であり、「生活費で使われていない」ことを証明するためには、連続した記帳が必要です。
- 遺産分割協議書・贈与税の申告書
- 相続や贈与で得たお金であることを証明します。単なる入金だと「隠し給与」や「ボーナス」と疑われるからです。
「昔の通帳を捨ててしまった」場合
銀行には取引履歴の保存義務がありますが、多くの銀行は**「10年」**しか遡れません。 結婚期間が15年、20年におよぶ熟年離婚の場合、結婚当初のデータが銀行からも消えており、立証不可能(=特有財産と認められない)になるケースが多々あります。 この場合、古い家計簿や日記、当時の定期預金証書など、あらゆる間接証拠をかき集めて裁判官を説得する弁護活動が必要になります。
4 【立場別戦略】どう動けば有利になるか?
最後に、あなたが「特有財産を守りたい側」か「崩したい側」かに分けて、具体的なアドバイスを送ります。
A. 特有財産を「守りたい」人(多くは資産を持っている側)
① 混ぜるな、危険 今からでも遅くありません。相続したお金や独身時代の貯金は、生活費口座とは完全に別の銀行口座に入れ、一切手を付けないでください。
② 「紐付き」を明確にする 特有財産を使って家や車を買う場合は、「頭金〇〇万円はA銀行の定期預金(特有)から出金し、不動産会社へ振り込んだ」という流れが通帳だけで追えるようにしてください。一度現金で引き出してタンス預金を経由すると、紐付けができなくなり、特有財産性を否定されるリスクが高まります。
③ 主張しないと認められない 特有財産は、黙っていても裁判所が「これは個人のものですね」と配慮してくれるわけではありません。自分から「これは特有財産です」と主張し、証拠を出さなければ、自動的に共有財産として分割されてしまいます。
B. 特有財産を「崩したい」人(多くは請求する側)
① 「立証責任」を相手に押し付ける 法律の世界では、「特有財産だ」と主張する側に立証責任があります。 相手が「これは俺の独身時代の金だ!」と言い張っても、「証拠がないなら共有財産ですよね?」と強気に交渉してください。
② 「協力」を強調する 相手が特有財産(株や不動産)の維持・管理に専念できたのは、あなたが家事育児を一手に引き受けたり、家計を支えたりしたからだ、というストーリーを構築してください。「内助の功」を法的に構成し、寄与分として食い込む余地を探ります。
結びに:その数百万円、諦める前に計算を
特有財産の議論は、パズルのようなものです。 入り組んだお金の流れを一つ一つ紐解き、「この50万円は特有」「この30万円は共有」と仕分けしていく作業は、非常に根気と専門知識を要します。
しかし、ここをサボると、本来自分の手元に残るはずだった老後資金や、親から受け継いだ大切な遺産を失うことになります。
- 「相手が全ての財産を特有財産だと言い張って、分与額がゼロに近い」
- 「昔の通帳がないけれど、絶対に自分の金だと証明したい」
このようなお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度、かがりび綜合法律事務所にご相談ください。 私たち弁護士は、数字の羅列から「あなたのお金」を見つけ出し、守り抜く術を知っています。
