こんにちは。弁護士法人かがりび綜合法律事務所、代表弁護士の野条健人です。
大阪は中小企業のオーナー社長や個人事業主として活躍されている方が非常に多い地域です。 それに比例して、離婚や別居のご相談でも「相手が自営業者であるケース」が後を絶ちません。
そして、このケースで必ずと言っていいほど直面するのが、「生活費(婚姻費用)の金額が合わない」というトラブルです。
夫:「今年の確定申告書を見てくれ。所得は200万円だ。月々の生活費なんて払える余裕はない」 妻:「そんなはずはないわ。毎晩飲み歩いて、ゴルフにも行っているじゃない!」
もし、あなたが夫から「確定申告書」を見せられ、「金がない」と言い包められそうになっているなら、ちょっと待ってください。 家庭裁判所の実務では、「確定申告書の数字をそのまま鵜呑みにしない」というのが鉄則です。
今回は、手元の法律実務資料に基づき、自営業者の婚姻費用を算定する際に必ず行われる「修正計算(足し戻し)」のロジックと、給与所得者とは全く異なる「基礎収入割合」の秘密について解説します。
このページの目次
1.大前提:自営業者の「年収」はどこを見る?
まず、算定表を使うためには、相手の「年収(総収入)」を確定させる必要があります。 会社員なら「源泉徴収票の支払金額(税込年収)」を見れば一発ですが、自営業者はどうでしょうか?
原則として「確定申告書の『課税される所得金額』」が総収入に当たるとされています 。 「売上金額(年商)」ではありません。経費を引いた後の「所得」がスタートラインです。
しかし、ここからが重要です。注意点としては以下のことがある。
自営業者の場合には、課税標準を計算する上での収入金額(売上金額)が養育費算定の総収入となるのではないことに注意する必要があります。
この「課税される所得金額」は、税法上、種々の観点から控除がされた結果であり、その金額をそのまま当然に総収入と考えることが相当ではない場合があります。
つまり、「税金を安くするための計算(節税)」と「家族を養う力を測る計算(婚姻費用)」は別物だということです。 税務署が認めてくれたからといって、裁判所が「支払い能力なし」と認めてくれるわけではないのです。
2.計算ポイント:「現実に支出されていない費用」を足し戻せ!
では、裁判所はどのように修正するのでしょうか?
税法上控除されたもののうち、現実に支出されていない費用(例えば、青色申告控除、支払がされていない専従者給与など)を「課税される所得金額」に加算して総収入を認定する必要があります。
これを実務では「足し戻し(たしもどし)」と言います。 具体的に、どのような項目が足し戻される(=年収に上乗せされる)のか見ていきましょう。
① 青色申告特別控除
これは、帳簿をきちんとつけているご褒美として、税金計算上65万円(または10万円)を引いてくれる制度です。 しかし、実際にお金が出ていったわけではありません。手元に現金は残っています。 したがって、この65万円は全額、年収にプラスされます。
② 専従者給与(実態がない場合)
妻や親族を従業員(専従者)にして給料を払ったことにし、経費にしているケースです。 もし、実際には働いていなかったり、給料が支払われていなかったりする場合(単なる節税対策の場合)、その金額は夫の収入の一部とみなされ、全額プラスされます。 妻自身が専従者として給与をもらっていた場合も、別居して働かなくなれば、その分は夫の収入に戻して計算することになります。
③ 減価償却費(げんかしょうきゃくひ)
資料には明記されていませんが、実務上最も重要なのがこれです。 車や設備を買った費用を数年に分けて経費計上するものですが、その年度にキャッシュが出ていったわけではありません。 したがって、これも原則としてプラスされます(※ただし、借入金の元本返済に充てられている場合などは調整が必要です)。
このように、確定申告書の「所得」が200万円でも、これらの控除を足し戻していくと、実質的な年収は400万円、500万円になることはザラにあります。
3.衝撃の事実:自営業者は「手取り」が多く計算される?
「でも、自営業はボーナスもないし、退職金もない。不安定だから、会社員より手元に残るお金(基礎収入)は少なく見積もられるんじゃないの?」
そう思われるかもしれませんが、実は逆です。 資料にある「基礎収入の割合(%)」を比較してみましょう。
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- 給与所得者(会社員):総収入の 34%〜42%
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- 自営業者:総収入の 47%〜52%
なんと、同じ年収であれば、自営業者の方が「基礎収入(=婚姻費用の計算に使う金額)」が高く設定されているのです。
なぜ自営業者の方が高いのか?
資料の解説によれば、基礎収入とは、総収入から「公租公課(税金)」「職業費(仕事の経費)」「特別経費(家賃など)」を引いたものです 。
会社員の場合、この「職業費(スーツ代、交際費など)」を概算で引いてくれます。 しかし、自営業者の場合、「仕事に必要な経費」は、すでに確定申告の段階で「必要経費」として差し引かれています。 したがって、ここからさらに「職業費」を引く必要がない(二重控除になってしまう)ため、その分、基礎収入の割合が高くなるのです。
つまり、「自営業者は、確定申告後の所得の約半分(50%前後)を、家族のために使えるお金として計算しますよ」というのが裁判所のルールなのです。
4.「経費」の使い込みを暴く戦い
さらに泥沼化しやすいのが、個人的な支出を「経費」に紛れ込ませているケースです。
- 社用車:高級外車を社用車にしているが、休日のゴルフや家族旅行にしか使っていない。
- 交際費:毎晩の飲み代や、愛人との食事代を「接待交際費」で落としている。
- 地代家賃:自宅兼事務所として、家賃の大部分を経費にしている。
これらは、税務署が認めていても、離婚調停(婚姻費用分担請求)の場では認められない可能性があります。 これらが「実質的な生活費」であると証明できれば、その分も夫の収入として上乗せ(認定)させることができます。
これには、夫の会社の決算書(損益計算書)や総勘定元帳を取り寄せ、怪しい支出を一つ一つチェックするという地道な作業が必要になります。
5.まとめ:自営業者の妻は「諦めない」ことが全て
自営業者の夫を持つ妻の皆様。 「うちは赤字だから」という言葉に騙されて、不当に低い生活費で我慢していませんか?
- 確定申告書の「所得」はあくまでスタートライン。
- 青色申告控除や減価償却費などの「足し戻し」を行う。
- 個人的な「経費」を洗い出し、収入に上乗せする。
- 自営業者用の「高い基礎収入割合(約50%)」を適用する。
この手順で正しく計算すれば、当初提示された額の倍以上の婚姻費用が認められることも珍しくありません。
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