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【弁護士が解説】別居後の不貞行為は慰謝料請求できる?|婚姻関係破綻と不貞行為の因果関係
離婚を考えて別居を開始したものの、その後に配偶者が他の異性と交際を始めたと知ったら、あなたはどのような気持ちになるでしょうか?
「別居しているとはいえ、まだ離婚していないのに…」 「裏切られた気持ちで慰謝料を請求したい!」
このように考えるのは自然な感情です。しかし、法律の世界では、**「別居後の不貞行為」**については、通常の不貞行為とは異なる判断がされることがあります。
今回の記事では、別居後の不貞行為が慰謝料請求の対象となるかについて、過去の裁判例を紐解きながら、弁護士の視点から詳しく解説します。特に、裁判例東京地判平23・6・30では、別居と不貞行為の関係を考える上で非常に参考になります。
あなたの抱える疑問や不安を解消し、今後の離婚手続きをどのように進めるべきか、具体的な見通しを立てることができるはずです。
1. そもそも「不貞行為」とは何か?
法律上の「不貞行為」とは、婚姻関係にある夫婦の一方が、配偶者以外の異性と自由意志に基づいて肉体関係を結ぶことを指します。
不貞行為は、夫婦の貞操義務に違反する行為であり、民法上の不法行為に該当します。したがって、不貞行為によって精神的苦痛を被った配偶者は、不貞行為をした配偶者と、その不貞相手の両方に対して慰謝料を請求することができます。
しかし、この慰謝料請求が認められるためには、不貞行為と精神的苦痛の間に「因果関係」があることが必要です。つまり、「不貞行為が夫婦関係を破綻させた原因である」と認められる必要があるのです。
2. 別居後の不貞行為が「不法行為」とならない理由
では、なぜ別居後の不貞行為は、慰謝料請求が難しくなるのでしょうか?
それは、裁判所が**「すでに夫婦関係が破綻している状況での不貞行為は、もはや夫婦関係を破綻させた原因とは言えない」**と判断するからです。
つまり、不貞行為が夫婦関係を破綻させたのではなく、夫婦関係の破綻という結果が先にあり、その後に不貞行為が起こったと見なされるわけです。
ただし、ここで言う「夫婦関係が破綻している」とは、単に別居しているという事実だけでは足りません。裁判所は、以下の点を総合的に考慮して判断します。
- 別居期間の長さ
- 別居中の夫婦間の交流の有無
- 関係修復に向けた努力の有無
- 別居に至った経緯
別居期間が長く、連絡もほとんど取っておらず、関係修復の努力も一切なされていないような状況であれば、「すでに婚姻関係は破綻していた」と判断されやすくなります。
3. 裁判例でみる「別居後の不貞行為」と慰謝料
別居と不貞行為に関する2つの裁判例を紹介したいと思います!
【裁判例1】東京地判平23・6・30 この事案は、夫が、学生時代に交際していた女性と、別居生活が5年余りに及んだ後に再会し交際を開始したケースです。 裁判所は、「すでに別居生活が5年余りに及んでいたことから、すでに婚姻関係は破綻していた」と判断しました。その結果、夫の行為は不法行為にはあたらないとして、妻からの慰謝料請求を棄却しました。
【裁判例2】 妻Xと夫Yが婚姻し、3人の子をもうけたが、平成16年以降、夫Aと女性Bとの不貞関係が発覚したことがきっかけとなったという事案のようです。このケースのように、不貞行為が発覚したことがきっかけで別居が始まったような事案では、不貞行為と夫婦関係の破綻に因果関係があると判断される可能性が高いです。
4. 事案の概要と裁判所の判断を詳しく紐解く
ほかにも裁判例(東京地判平23・6・30)について、以下の事案です。
【事案の概要】 原告(妻X)と被告(夫Y)は婚姻し、3人の子をもうけた後、夫Yの不貞行為が原因で別居。別居期間は5年余りに及びました。 夫Yは別居中に、学生時代に交際していた女性と再会し、交際を開始しました。
【原告の主張】 妻Xは、夫Yが別の女性と交際したことを不貞行為として、慰謝料を請求しました。
【裁判所の判断】 裁判所は、以下の点を総合的に考慮し、「不法行為に基づく損害賠償請求として100万円を認容した*と判示しました。
- 婚姻関係の破綻は否定: 裁判所は、別居期間が5年余りあったものの、妻Xが夫Yとの同居を望んでいたことや、夫Yが暴力を振るうようになったことが別居の原因であったことなどを考慮し、別居時点では婚姻関係が破綻していたとまでは認めませんでした。
- 不貞行為の認定: 夫Yが別居中に別の女性と交際していた事実を認定。
- 因果関係の認定: 夫Yの不貞行為が、夫婦関係の破綻を決定づけた原因であると判断。
この裁判例は、別居期間が長期に及んでいても、夫婦関係が完全に破綻していたとは言えないと判断されれば、別居後の不貞行為であっても慰謝料請求が認められることを示しています。
【ポイント解説】 この事案の重要なポイントは、「別居期間の長さ」という形式的な事実だけでなく、「別居に至った経緯」や「別居後も関係修復を望む気持ちがあったか」という実態を重視している点です。
裁判所は、夫Yの暴力行為が別居の原因であり、妻Xがその後も離婚を望んでいなかったという事実を重視し、「夫Yの言動により妻Xと夫Yの婚姻関係は相当程度傷つけられていたものの、婚姻関係が破綻していたとまでは認められない」と判断しました。
つまり、別居期間が長かったとしても、その別居が相手の有責な行為(暴力など)によって始まったものであり、非有責配偶者側が関係修復を望んでいたのであれば、婚姻関係はまだ破綻していないと判断される可能性があるのです。
4. まとめ:別居後の不貞行為と慰謝料請求の可能性
別居後の不貞行為であっても、慰謝料請求が認められる可能性は十分にあります。その鍵を握るのは、「不貞行為が始まった時点で、夫婦関係が完全に破綻していたかどうか」という点です。
- 慰謝料請求が認められやすいケース:
- 相手のDVやモラハラ、生活費不払いなどが原因で別居を開始した。
- 別居期間が比較的短く、夫婦間の交流があった。
- 別居後も、非有責配偶者側は関係修復を望んでいた。
- 慰謝料請求が難しいケース:
- 夫婦双方の合意で別居し、関係修復の努力を一切していなかった。
- 別居期間が非常に長く、互いに連絡も取っていない。
別居後の不貞行為は、法的な判断が非常に複雑になります。一人で悩まず、まずは弁護士にご相談いただくことを強くお勧めします。
当事務所では、あなたの状況を丁寧にヒアリングし、過去の判例や最新の裁判実務に基づいた最適な解決策をご提案します。
「別居中に不貞行為をされたけど、もう諦めるしかないのかな…」 そう思っている方も、まずは一度、かがりび綜合法律事務所までお気軽にご相談ください。あなたの正当な権利を守るため、全力でサポートいたします。
