モラハラ(モラルハラスメント)とは何か?
モラハラとは、一般的に「倫理性に反する嫌がらせ行為」と定義され、相手に精神的なダメージを与え、信頼関係を破壊する言動を指します。身体的な暴力とは異なり、直接的な暴力行為がないことが特徴ですが、その悪質な言動は継続的に相手の人格を無視・軽視し、自己中心的な態度で相手を精神的に追い詰めます。本件で示されているように、このような行為は、夫婦間の共同生活を破綻させる重大な要因となり得ます。配偶者からの暴力の防止及び被害者等の保護に関する法律(DV防止法)においても、このような精神的な嫌がらせは、身体的暴力に準ずるものとして捉えられることがあります。
2. 婚姻関係におけるモラハラの様態
婚姻関係におけるモラハラは、多岐にわたります。例えば、以下のような行為が挙げられます。
- 言葉による攻撃:
- 相手を侮辱する、軽蔑する言葉を浴びせる。
- 相手の意見や存在を頭ごなしに否定する。
- 相手の欠点を執拗に指摘し続ける。
- 公の場で相手を嘲笑する。
- 態度による攻撃:
- 相手を無視する、口を利かない。
- 相手の行動を監視・束縛する。
- 生活費を渡さない、金銭的に支配する。
- 相手の友人や家族との交流を妨害する。
- その他:
- 自分の非を絶対に認めない。
- 常に自分が正しいという態度を崩さない。
- 相手に過度な要求を突き付ける。
これらの行為は、単発的なものではなく、継続的に行われることで相手の自尊心を奪い、精神的な健康を蝕んでいきます。その結果、夫婦関係の修復が困難となり、離婚に至るケースが増えています。
3. 婚姻関係の破綻とモラハラの因果関係
裁判において、モラハラが婚姻関係破綻の主な原因であると認定されるためには、具体的な証拠が必要です。性格の不一致や愛情の喪失といった抽象的な理由ではなく、モラハラ行為が原因で夫婦関係が修復不可能な状態になったことを証明しなければなりません。
4. 証拠資料の具体例
離婚訴訟において、モラハラを証明するための証拠としては、以下のようなものが考えられます。
- ◇夫や妻が、婚姻関係修復の努力をしたことを示す資料:
- メールや手紙のやり取り: 相手に謝罪や反省の意を示したり、今後の改善策を提案したりした記録。
- 陳述書・証言: 夫婦関係を修復しようと努力した経緯を詳細に記した自身の陳述書や、その努力を知る家族・友人の証言。
- カウンセリングの記録: 夫婦関係改善のために専門機関を利用した記録。
- ◇相手の態度が頑なで、一方的であったことを示す資料:
- 手紙やメールのやり取り: 相手からの侮辱的な言葉や、一方的な態度を示す内容の記録。
- 陳述書・証言: 相手が話し合いを拒否したり、謝罪を受け入れなかったりした状況を具体的に記したもの。
- 医師の診断書: モラハラが原因で精神的な不調をきたしたことを証明する診断書。
5. 裁判例から読み解くモラハラ
判例は、モラハラが婚姻関係破綻の原因として認められるケースを示唆しています。
- 最判昭38・6・7家月15・8・55:
- この判例では、原審が「性格の不一致と愛情の喪失」を婚姻破綻の原因としたのに対し、上級審は事実関係を詳細に検討しました。その結果、婚姻関係の破綻は、夫の「独善的かつ独断的な行為」に起因すると判断され、原審の判断が覆されました。これは、単なる性格の不一致ではなく、一方の当事者によるモラハラ的な行為が破綻の主要な原因であると認定されたことを意味します。
- モラハラと不法行為:
- 借家への盗聴装置設置や従業員の会話盗聴の事例は、モラハラそのものではありませんが、他人のプライバシーを侵害する行為が不法行為となり慰謝料の請求が認められることを示しています。モラハラもまた、相手の人格権やプライバシーを侵害する行為と見なされ、慰謝料の対象となり得ます。
6. モラハラが認められるためのポイント
モラハラが婚姻関係破綻の原因として認められるためには、以下の点が重要です。
- 継続性: 一時的な感情のぶつかり合いではなく、長期間にわたって同様の言動が繰り返されていること。
- 一方性: 夫婦の一方から他方への一方的な攻撃であり、双方の責任ではないこと。
- 人格の否定: 相手の人格そのものを否定し、尊重しない言動が見られること。
- 精神的苦痛: これらの行為により、相手が深刻な精神的苦痛を被り、それが医師の診断書などで客観的に証明できること。
7. まとめ
モラハラは、身体的な傷跡を残さない一方で、相手の心に深い傷を残し、夫婦関係を破綻させる重大な要因となり得ます。裁判では、客観的な証拠を積み重ね、その行為の悪質性や継続性を立証することで、婚姻破綻の原因として認められる可能性が高まります。性格の不一致という曖昧な理由で片付けら
