【医師・医療従事者との離婚】特有の財産分与と親権論点—弁護士が解説する「成功の鍵」

【医師・医療従事者との離婚】特有の財産分与と親権論点—弁護士が解説する「成功の鍵」

医師や歯科医師、あるいは高収入の医療従事者を相手とする離婚は、一般的な離婚事件とは一線を画します。彼らは高収入である反面、**「特殊な資産構造」「多忙による家庭生活の欠如」「社会的信用の高さ」**といった、独自の論点を抱えています。

特に財産分与においては、**「医師特有の隠し資産」**が存在する可能性が高く、弁護士の専門的な調査能力が不可欠となります。

弁護士法人かがりび綜合法律事務所が、数多くの医療関係者の離婚を扱ってきた経験から、成功に向けた重要なポイントを解説します。

第1章:医師・医療従事者との離婚で直面する3つの壁

1. 壁①:財産隠蔽の難しさ(個人資産と事業資産の混同)

医師は給与所得者である場合もありますが、開業医の場合、個人資産と法人の資産が複雑に絡み合っています。

  • 医療法人名義の資産: 医療機器、病院の土地・建物、多額の内部留保(会社の預金)は、原則として個人の財産分与の対象外です。
  • 法人否認の難しさ: しかし、前回の記事で解説したように、法人を個人の金庫として使っている場合、「法人否認の法理」を適用し、内部留保を分与の対象とできる可能性があります。ただし、医療法人は厳格な会計基準があるため、一般的な法人より立証のハードルが高いのが実情です。
  • 医師特有の資産: 勤務医の場合、退職金が多額になることが多く、退職金規程の調査が不可欠です。

2. 壁②:時間的・精神的な「モラハラ体質」

多忙を極める医師は、家庭生活への参画時間が極端に少ないにもかかわらず、高収入であるという自負から、家庭内で支配的な態度を取るケースが多く見られます。

  • モラハラ・DV体質: 「誰のおかげで生活できていると思っているのか」「私の仕事の大変さが理解できないのか」といった言葉による精神的DV(モラハラ)が発生しやすい環境にあります。
  • 証拠収集の難しさ: 相手が自宅にいる時間が少ないため、暴言の録音や日々の行動の証拠を集める機会が限られる場合があります。

3. 壁③:親権争いでの「社会的信用」の主張

親権争いになった際、相手方は「私は医師であり、高い経済力と社会的信用があるため、子供にとって最善の環境を提供できる」と主張してくる可能性が高いです。

  • 経済力への過信: 相手はしばしば「経済力=親権の強さ」と過信していますが、裁判所は**「監護能力」「継続性の原則」**を重視します。
  • 主張すべきこと: 医療従事者の多忙さを逆手に取り、「仕事の多忙さから、子供の監護に十分な時間を割けていない事実」を客観的な証拠をもって主張する必要があります。

第2章:財産分与の成功鍵 — 隠された資産を見つける方法

医師との離婚で最も重要なのは、**「隠されている資産」**を徹底的に洗い出すことです。相手は自身の高い知識を利用し、巧妙な手段で資産を隠蔽している場合があります。

1. 医療法人の内部留保と持分(開業医の場合)

医療法人は利益を出しすぎると税金が高くなるため、意図的に内部留保を調整し、外部から見えにくい形で資産をプールしていることがあります。

  • 持分(出資)の評価: 医療法人の出資持分は、財産分与の対象となる可能性があります。その評価額の算定には、複雑な会計処理と専門的な知識が必要です。
  • 不自然な経費のチェック: 会社の経費として計上されている交際費、車両費(高級外車)、退職金積み立てなどが、実質的に個人の遊興や資産形成に使われていないかを細かく精査します。

2. 勤務医の退職金と生命保険

勤務医の場合、退職金規程や、将来の医療事故等に備えた高額な生命保険に加入しているケースが多いです。

  • 退職金の前倒し評価: 離婚時にまだ退職していなくても、将来的に得られる退職金を分与対象として算定します。退職金規程の開示を求め、現在の給与を基準とした**「自己都合退職した場合の仮想額」**を計算します。
  • 高額な保険の解約返戻金: 終身保険や養老保険の解約返戻金は、別居時点の評価額を分与の対象とします。特に多額の生命保険に加入している場合は、契約内容を徹底的に調査します。

3. 医療賠償責任保険と年金

医師特有の資産ではありませんが、財産分与の計算で見落とされがちです。特に、将来の年金分割を見越した「厚生年金基金」や「個人年金」の加入状況も細かくチェックします。

第3章:親権争いでの戦略 — 「監護の質」を証明する

相手が高い社会的地位を主張してきたとしても、親権争いで怯む必要はありません。裁判所は「子供の福祉」を最優先し、以下の点を重視します。

1. 「継続性の原則」の徹底

別居の際は、必ず子供を連れて出ることが大原則です。母親(または主たる監護者)が子供を連れて別居し、そこで平穏に生活しているという「継続性の事実」こそが、相手の社会的信用に対する最大の防御となります。

2. 相手の多忙さを客観的に証明する

相手の主張する「最善の環境」が、実際には多忙による**「監護の欠如」**を伴っていることを立証します。

  • 勤務表の提出要求: 勤務している病院の勤務表や当直表を提出させ、子供の送迎や学校行事に参加できない多忙な実態を客観的に示します。
  • 育児への関与度: 「主たる監護者論」に基づき、相手が子供の成長・教育に具体的に関与した記録(PTA活動への参加、学習指導、病気の対応など)がほとんどないことを示します。

まとめ:専門家による「徹底した調査」が鍵

医師や医療従事者との離婚は、法的な知識だけでなく、医療法人の会計や給与体系、そして相手の社会的地位に臆することなく対峙できる**「交渉力と調査力」**が要求されます。

「うちの夫は高収入だから無理」と諦める前に、その収入や資産が夫婦の協力関係のもと、どのように形成・維持されてきたのかを、私たち弁護士と一緒に徹底的に調査することが、成功への唯一の道です。

当事務所は、複雑な財産分与や親権争いに特化しております。不安を抱える前に、ぜひ一度ご相談ください。

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野条 健人 代表弁護士
大阪を拠点に、男女問題・離婚・DV・モラハラなど、デリケートな問題を抱える方々の相談に親身に対応しています。ただ法律的な解決を目指すだけでなく、依頼者様の気持ちに寄り添い、心の負担を少しでも軽くすることを大切にしています。 「相談してよかった」と思っていただけるよう、一人ひとりのお話を丁寧に伺い、最適な解決策をご提案します。お悩みの方は、お気軽にご相談ください。

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