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結婚時の学資保険、どう分ける?どう引き継ぐ?
1. 学資保険は「誰のもの」か?
まず大前提として、学資保険は「子供のもの」ではありません。 法律上は**「契約者(多くは夫)の資産」**として扱われます。したがって、婚姻期間中に支払った保険料に対応する部分は、財産分与の対象となります。
- 対象となる金額: 「別居時(または離婚時)」の解約返戻金(かいやくへんれいきん)相当額です。
- 注意:今まで支払った保険料の総額ではありません。
2. メインの争点:解約するか、継続(名義変更)するか
離婚時の処理方法は大きく分けて2つあります。
A案:解約して現金を分ける(シンプルだが損)
保険を解約し、戻ってきた解約返戻金を2分の1ずつ分けます。
- メリット: きれいに清算できる。後腐れがない。
- デメリット: 元本割れする可能性が高い。子供の将来の学資金が消える。再度加入しようとしても、年齢制限や子供の健康状態で入れないことがある。
B案:名義変更をして継続する(推奨だが手続が複雑)
親権を持つ側(例:妻)に契約者の名義を変更し、保険契約そのものを引き継ぎます。
- メリット: 子供のための積立を維持できる。利率が良い古い契約を残せる。
- デメリット: 財産分与の計算が複雑になる。相手(夫)の協力(署名・捺印)が不可欠。
3. 「名義変更」の重要ポイントと落とし穴
B案(継続)を選ぶ場合、以下のハードルを越える必要があります。
① 変更すべきは「契約者」と「受取人」
ただ「名義を変える」といっても、保険契約には3つの登場人物がいます。
- 契約者: 保険料を払い、解約等の権限を持つ人(夫→妻へ変更)
- 被保険者: 保険の対象(子供のまま)
- 受取人: 満期金を受け取る人(夫→妻または子供へ変更)
※特に**「満期金の受取人」**を変え忘れると、何年も払い続けた後に元夫の口座にお金が振り込まれるという悲劇が起きます。
② 相手方の協力がないと詰む
名義変更には、現在の契約者(夫)の実印や署名が必要です。「離婚届を出した後でやろう」と思っていると、離婚後に相手が音信不通になったり、「ハンコ代」を要求されたりして手続きがストップするリスクがあります。
- 鉄則: 可能な限り、離婚成立前(別居中や協議中)に変更手続きを完了させるか、公正証書に明記させること。
③ 財産分与の計算(調整)が必要
妻が解約返戻金100万円の学資保険の名義をもらう場合、妻は「100万円分の資産を先に受け取った」ことになります。 その分、預貯金などの他の財産分与額から差し引いて調整します。
計算例:
- 夫婦の預金:400万円
- 学資保険(解約返戻金):100万円
- 財産総額:500万円(折半なら250万円ずつ)
分け方: 妻は学資保険(100万円)をもらうので、預金からは150万円もらう。 (100万+150万=250万) 夫は預金から250万円もらう。
4. よくある質問・注意点
Q. 今後の保険料は誰が払う?
A. 新しい契約者(親権者)です。 名義変更後は、妻が自分の口座から保険料を支払います。 「養育費の一部として夫に払わせたい」という相談もありますが、支払いが滞ると保険が失効するリスクがあるため、**「保険料相当額を養育費に上乗せしてもらい、支払いは妻自身が行う」**のが安全です。
Q. 税金はかかる?
A. 原則かかりません。 離婚に伴う財産分与として名義変更を受けた場合、贈与税は通常かかりません。ただし、過大すぎる場合などは例外もあるため、高額な場合は税理士確認が必要です。
Q. 貸付金(契約者貸付)がある場合は?
A. 実質価値で計算します。 夫が勝手に保険からお金を借りている(契約者貸付)場合、解約返戻金から貸付金を引いた残額が「実質的な価値」となります。この場合、借金を背負って引き継ぐことになるため、その分を財産分与で考慮してもらう必要があります。
まとめ:クライアント(妻側)へのアドバイス
学資保険を守るためには、以下の3ステップを提案します。
- 現状把握: 保険証券を確認し、保険会社に「現時点での解約返戻金額」を問い合わせて証明書を出してもらう。
- 交渉・合意: 離婚協議書や公正証書に「学資保険(証券番号〇〇)の契約者名義を妻に変更し、妻がこれを取得する」と明記する。
- 即実行: 離婚届提出の前に、保険会社所定の書類を夫に書いてもらう。
学資保険は「子供への最後のプレゼント」になることもあれば、争いの種になることもあります。 早めの保全がカギとなります。
